いよいよ米ドルの覇権=基軸通貨体制が崩れるのではないかという予想が増えてきました。週刊エコノミストの2018年5月1日号では、ドル沈没=通貨三極体制で世界経済の不安定化について、特集が組まれています。
米中の貿易戦争で、中国が米国債を大きく売りにだせば、米ドル売りが殺到して、暴落することもありえます。もちろん、その場合、米国債の大量保有者である中国も痛手を受けますから、そう簡単にできることではありません。しかし、米ドルの覇権体制は、弱めないと世界経済にとって、よくないのも確かなこと。
米ドルの力が弱まり、通貨三極体制への移行期が始まった
トランプ大統領の誕生は、彼だけの主義ではなく、米国自体の変化ととらえる必要があります。
エイジェム・キャピタルグループの小西丹氏は、米軍が世界から撤退するアメグジット戦略と説明。過去にも米国は、19世紀前半にモンロー主義を唱えて、欧州への不干渉を宣言して、米国大陸を影響範囲にした孤立主義を政策にしたことがあり、今回も同じような考え方をする国民が増えたと考えることが出来ます。
◆米国の覇権離脱が起きている
- シリアのアサド政権は、ロシアの責任&しっかり管理せよとの意思
- 北朝鮮問題も米軍が朝鮮半島からの撤退を含めた中国との合意
- 米中貿易摩擦:トランプ政権
- 世界の警察官の任務を果たせない:オバマ政権
- シェール革命による産油国化
- 中国経済の成長による米国の経済力低下(相対的なもの)
米ドルは基軸通貨として、英ポンドからその座を奪ってから、世界中の決済に使われています。その米ドルの外貨準備は減少傾向にあり、ユーロの割合が上昇。
2017年第4・四半期の世界全体のドル準備額は6兆2800億ドル:IMF
- 米ドル:62.7%
- ユーロ:20.15%
- 日本円:4.89%
- 人民元:1.23%
そして、この外貨準備高と経済力の比率がアンバランスという問題がああります。
世界全体の名目GDPの比率:2018年のIMF予想
- 米国:23.9%
- 中国:15.5%
- 日本:6.0%
- ドイツ:4.7%
- フランス:3.3%
- イギリス:3.2%
米国は、世界最大の経済力を持ちながら、いまや、その比率は23.9%と1/4以下しかありません。ところが、通貨としての米ドルは、外貨準備の62.7%、為替取引の43.8%と大きな割合を占めています。このいびつさが、いずれ崩れるときが来るのではと予想します。
米国は、1/4の経済力で、半分から2/3の決済を米ドルでまかなうのですから、時々、米国発の金融危機が起きるのも致し方ないところ。アジアやロシアの通貨危機も自由市場に対して、国家や中央銀行が強引に自国通貨を高めに保っていたことが理由の一つ。
かのジョージ・ソロスが、イングランド銀行を負かした時も、経済の実情以上に高く維持していた英ポンドを持続不可能と見たソロスをはじめとするファンドが売り崩しただけで、すべてが自由であるならば、とっくに英ポンド安になっていたはず。
いずれは、人民元が米ドルと覇権を分かち合う時が来ないとバランス的には、おかしいのが経済力から見た実情。しばらくは、米ドル・人民元・ユーロという通貨の三極体制という時代が来ると思います。
米ドルの基軸通貨時代が揺らぐ
エコノミスト誌で専門家達は、下記のような予想を展開。
◆豊島逸夫:豊島&アソシエイツ 通貨のレジームチェンジが起きており、今後の5~10年が移行期。長期的に米ドル安が進行し、輸出主導国は自国通貨高となる
◆浜矩子:同志社大学教授 ドルの通貨覇権が崩壊する
◆岩下直行:京都大学教授 仮想通貨が国際的な決済システムを揺るがす。ドル以上に使い勝手のいいデジタル通貨があれば、米ドルに代わる可能性がある
ムニューシン米財務長官が、ダボス会議という自由経済&グローバル推進派の前で、米ドル安を容認したのも三極体制に向けた話しの一環だったのでしょうか。
今回の米ドルが弱まり、三極体制になるという話は、目先の数カ月で起きるという話ではありません。実現するとしても、数年をかけて起きていくことだとお考え下さい。