FX(為替相場)にインサイダー取引はないというのが定説。実際に、雇用統計をはじめとした重要な経済指標の発表前に、発表される数字が分かっていたかのように為替相場が動き出すことはありません。
経済指標や日銀の金融政策決定会合などの金融政策は、どんなに速くても公表されてから動きますので、インサイダー的な動きをすることはありません。
米国の大手ヘッジファンドや銀行は、ナノ秒の速さで、情報を取得してから取引を執行します。その際に見ているのは、公表された情報以上に値動き。
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FXでインサイダー取引が少ない理由
残念ながら、FXにもインサイダーはあります。でも、株式に比べるとはるかに少なく、ほとんどないと言っていいレベルです。
為替にインサイダーが少ない理由はとても単純。
- 為替相場を動かす経済指標は国や半公的機関が扱う
- インサイダー情報を知る立場にある人は、給与・名誉双方で満たされている
- インサイダーが発覚した時に失う社会的地位や名誉が大きすぎる
- 為替相場の取引量が大きいため、少々のインサイダーでは、相場が動かずばれにくい。
FXの場合、為替相場で売買します。その為替相場は世界最大の市場で、1日に2兆ドル規模で取引が行われています。(2013年BISデータ)
株式市場でインサイダーが行われやすいのは中小型株。その方が情報関係者にインサイダーを行いたいという意欲が強い。しかし、出来高が少ないために、インサイダーがばれやすいという相反関係があります。
●インサイダーのあったユーロ/スイスフランの週足チャート:DMMFX
為替相場でインサイダーを行う方法
そして、為替相場のインサイダーで簡単に儲けるには、経済指標のデータを公表前に知るか金融政策決定会合の結果を事前に知り、あらかじめ売買しておく方法になります。企業の決算や新製品などでのインサイダーと同じパターンです。
しかし、企業に比べて、国の経済官僚や大臣・中央銀行の役職は重いもの。金銭的な面でも、単年だけを見れば、企業の方が上かもしれませんが、退任後の役職・講演・書籍出版などを考えるとかなり大きく利益を得られます。
名誉については、金銭で換算できない程、大きな価値を持ちます。名誉・金銭ともに得ている人物がインサイダーを行ってまで、稼ぎたいと思うでしょうか。万一、発覚すれば、それまで積み上げてきた名誉や役職が全て吹っ飛ぶリスクがあります。
まあ、それでもインサイダーの事例はゼロではないんですけどね。
スイス中銀のフィリップ・ヒルデブラント総裁のインサイダー
最も有名なFXでのインサイダーはこれでしょう。
先週、今回の為替取引をヒルデブラント氏は「短期で資産を増やすための投機ではなく、家族の資産を長期的に異なる通貨に分散するのが目的だった」、また「エコノミストでもあり、独立した性格の妻が1人で行った取引」とも語っていた。SWI:ヒルデブラント総裁辞任
スイス中銀が2011年に対ユーロの上限を設定する前の8月に、スイス中銀総裁のフイリップ・ヒルデブラント総裁の妻だったカシュア夫人が50万ドルのドル買いを行っており、インサイダー取引だと疑われた事件。
ヒルデブラント総裁の釈明では、カシュア夫人の取引は、短期で利益を得ようとしたのではなく、長期的な資産分散だったと説明。規定には問題はなくもモラルに反すると認めて辞任。カシュア夫人自身もエコノミストで、自身の投資判断に基づいたとのこと。であれば、なおさら、スイス中銀に関する情報を話した結果、為替取引を行ってはインサイダーと言われても仕方ありません。
ヒルデブラント総裁がどこまで、カシュア夫人に話をしたかは分かりませんが、まったく何も話していないとは思えません。この事例から見ても中銀関係者が、資産移動やヘッジ的な名目でインサイダーを行う事例は他にも出てきそうです。
なお、スイス中銀総裁や役員自身の為替取引は禁じられているも関係者は禁じられていないため、規定には反していないのこと。
全く、別の話として、フィリップ・ヒルデブラント氏は、スイス中銀を辞任した後に、資産運用会社のブラックロックで副会長をしています。そして、インサイダー事件で問題となったカシュア夫人と離婚した後に、フランスの大手総合商社、ルイ・ドレフュス・コモディティーズの会長兼マルセイユのオーナーだった、マルガリータ・ルイドレフュスさんと結婚。なんと、ルイドレフュスさんが53歳で双子を妊娠と話題になっています。マルガリータさんはロシア生まれで、ルイドレフュスのオーナーだったロベール・ルイドレフュス氏と結婚も2009年にロベール氏が死去。ルイドレフュス財閥を受け継いだ女性です。
FRB:FOMCでのインサイダー疑惑
FOMCの内容があらかじめ分かっていれば、大儲けできるのにとFXトレーダーなら、誰もが考えること。そして、やっぱりFOMCでのインサイダー疑惑は過去に起きています。
2012年10月に起きたメドレー・グローバル・アドバイザズのインサイダー疑惑。この問題は、米ニューヨークの当局が現在も調査を実施している最中。
問題となっているFRBの内部調査は、調査会社メドレー・グローバル・アドバイザーズの2012年10月の顧客向けリポートに、FRB内部の政策協議に関して市場を動かしかねない情報が含まれていたことに関するもの。FRBの調査では、コミュニケーション指針に大きな違反はないことが判明した。ロイター
2015年6月29日のうっかりミス。こちらはインサイダーではなくFRBでのミス。FRBスタッフの経済予測値を誤って、ウェブサイトにアップしてしまったのです。結局、FRBは釈明を行い、正式にデータを公開。
添付のグラフに表したごとく、FOMC参加者の予測中央値より、FRBスタッフの予測値のほうがかなり低い。FOMC参加者は0.63%(2015年)、1.625%(16年)、2.875%(17年)。一方、FRBスタッフは0.35%(15年)、1.26%(16年)、2.12%(17年)となっている。日経新聞
これは、インサイダーではありませんでした。
このように、FXとはいえ、インサイダーがゼロではなく、その誘惑を受けている関係者も多いでしょう。
ただし、株式のインサイダーと大きく違うことがあります。それは、FXは、インサイダーで相場が動かないこと。株式の場合、重要な発表前に株価が動いていて、発表後に売買しては遅すぎる事例が頻繁にあります。その点、為替相場は取引量・世間に与える影響が大きいことから、イベント前にインサイダーで市場が動いてしまうと、すぐに分かってしまいます。
FXのインサイダーはゼロとは言えません。しかし、インサイダーによる情報で、事前に相場が動いて、一般人はカモにされるという悔しい事はほぼないと言えるでしょう。