米国と中国の貿易を巡る交渉の中で、中国側の切り札となるのが「米国債の売却」。少々の売却ではなく、大量売却を行えば、米ドル及び世界経済は激震に見舞われるでしょう。この話が金融・FXで語られるようになりました。
元モルガン・スタンレー・アジア会長のスティーブン・ローチ氏は、米国によるゴリ押しによって、中国の経済成長を妨げるならば、米国債を買わずに売却するという手段を取る可能性があると指摘。
スティーブン・ローチ氏のブルームバーグでのインタビューは、全体的にトランプ政権への批判がメイン。彼自身、中国がこの手段を取る可能性は低いとみている様子。
ただし、中国が、米国債の売却をすぐに行うとは考えていないものの、プレッシャーを掛ければ、この手段が浮上すると指摘。同時に、トランプ政権は、中産階級を助ける目的なのに、その人たちが不利になるだろうと語るなど政権への問題点が半分。
中国による米国債の売却の影響
- 米国債の価格下落
- 米金利は急騰
- 米ドル安
- 金利上昇で資産価格は下落
これは、そう簡単にできることではありません。米国債を売ることで困るのは米国だけではありません。最大の米国債保有は中国、次は日本。ならば、米国債の下落で損をするのは中国も同じ。価格が下がる前に売り抜けることができない程、大量に保有しているため。仕手筋の売り逃げが難しいのといっしょで、売るためには買い手が必要です。
しかも、米国債を売って、代わりに何を保有するという選択肢がありません。
2017年第2・四半期の世界の外貨準備に占めるドルの割合は約63.8%と、前四半期の64.6%から低下した。準備高の水準は5兆9100億ドル。前四半期は5兆7100億ドルだった。ロイター
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- 米ドル:63.8%
- ユーロ:20%
- 日本円:4.6%
- 人民元:0.1%
IMFのデータでは、世界の外貨準備高は、上の通りで米ドルが半分以上を占めています。本来の経済規模からすると、人民元での外貨準備がもっと増えなければいけないはず。人民元市場の透明性・様々な制限がFXでの人民元シェアを抑え込んでいます。
経済規模で世界2位に躍進した中国の通貨「人民元」が有効に使われるようにならないと、米ドル頼りのひずみが出てくるでしょう。米国債売却という手札が張子の虎なのも米ドル・米国債以外の手段が少ないから。
余程、米国が中国に対して、無理な注文を出さない限り、このカードは切れません。ただ、米国債売却を口に出すことで、米債・FXをはじめとした金融市場を揺るがす効果がありますから、話題自体は時折出てくるでしょう。
そして、中国の米国債売却リスクは少なくても、ストックとしての買入れ減少リスクはありえます。
- 一路一帯実現のために、外貨準備をインフラ投資に利用する。
- 中国と欧州諸国との関係強化に伴い、外貨準備をユーロ寄り
中国自身、米国と協調しながら、アジアの大国として存在感を増す戦略を取るはず。いきなり軍事力で押し込むよりも、力を魅せつけることで周辺国を抑え込むというのが、中国=漢民族のやり方。軍事力優先なのは、元や遼・金といった遊牧民族の方法。
米国自身も、世界の警察官・唯一の覇権国としての地位をオバマ政権・トランプ政権でおりつつありますしね。