世界の景気回復傾向が顕著になっている中、日銀の出口戦略に関する議論と緩和の意味が登場してくる機会が増えています。特に日銀の出口戦略が成功するか否かは、インフレ・為替相場に与える影響が大きく。FXにとっても最重要事項。
週刊エコノミストでは、出口の迷路として金融政策を問うという連載を行っています。今回は、法政大学教授の翁邦雄氏が登場。黒田日銀の異次元緩和の目的であった2%のインフレ目標に対して批判を行っています。
2年間で2%のインフレ目標は達成できず
黒田総裁は、2年間で2%のインフレ目標を達成することを目的に金融政策を実施してきました。デフレマインドを払しょくするために、大胆な金融緩和で人々の心理を改善し、緩やかなインフレを人為的に生じさせるリフレ政策の根幹です。
黒田日銀の主張
- 物価が上がらないから景気が良くならない。
- インフレは、貨幣的現象
翁氏は、この二つが誤りだと指摘。
まず一つ、インフレ目標にとらわれ過ぎではないか?という疑問を呈しています。
インフレ率が低くても経済は好調になるし加熱もする。それはバブル時代に起きたこと。バブル期も物価が上がらないために、金融緩和の是正を困難にした。
物価だけでなく、経済全体、なかでも金融面の不均衡が重要。物価安定が経済全体の安定の必要十分条件でないことは、欧米の中央銀行も理解しはじめている。
確かに、世界経済は上向いています。例えば、IMFによる世界経済見通しは、2017年を3.6%、2018年を3.7%とするなど好調を維持(2017年10月10日公表)
◆世界のGDP成長率
出典:世界経済のネタ帳
以前のような高成長は、見込めないものの日本・アメリカ・ドイツとも方向性は上向き。
二つ目に、黒田総裁は、4年判経過しても消費者物価指数の前年比が0%台で、金融政策によるデフレ脱却が出来ないと明らかに。
中央銀行の金融政策次第で、インフレ目標は達成できるというリフレ派の主張を否定することになりました。
現在の経済は、インフレ目標を達成できないもののそこそこ好調。一方で緩和やマイナス金利の弊害も生じており、今後の出口戦略が怖いという状態。そこで、翁氏は、今後の政策について以下のように提言。
2013年1月22日の日銀と政府の共同声明に戻るべし
- 1.持続可能な財政構造を確立する
- 2.金融面での不均衡の蓄積を含めたリスク要因をチェックする
- 3.持続可能な物価安定を目指す
異次元緩和はアベノミクスの第一の矢であり政権と一体であり、日銀の独立性は弱いと指摘しており、これは、金融を少しでも知っている人ならば同意できる事実。
米国・カナダなどは明確なインフレ目標を達成していないにもかかわらず、金融引締めへと舵を切っている。さて、黒田日銀は、いつ出口戦略を本格的にスタートするのか?
2017年秋の衆院選挙は、民進党解体&自民党の安定基盤を作る結果になるかもしれません。そうなれば、いよいよ金融引締めへと路線転換する地ならしでしょうか。
ちなみに翁氏は、日銀副総裁の岩田氏と論争を繰り広げるなど、現在の日銀執行部に批判的な立場。
岩田・翁論争とは,1990年代前半,上智大学教授(当時)であった岩田規久男氏(現・日銀副総裁)と日銀調査統計局企画調査課長(当時)であった翁邦雄氏(現・京大教授)との間で展開された「マネーサプライ(マネーストック)論争」だが,「日銀がマネタリーベースを増やせばマネースットックも増加し,インフレ圧力を高めることが可能」とする岩田氏に対し,そのような単純な関係を否定する翁氏との論争であった。岩田・翁論争
デフレ脱却を巡る議論は、リフレ派が黒田日銀総裁の元で異次元緩和を実行しましたが、4年半経過して、反対派の逆襲が起きてきそうです。
◆日経平均株価は、金融緩和の影響で大幅に上昇
●GMOクリック証券のFXネオ 月足チャート 2017年10月17日
日経平均株価&2年債金利
株価は2万円を突破。米ドル/円は、このところ、円高が続き112円台で推移。