2000年5月に刊行された「通貨が堕落するとき」は、元日銀出身で金融庁をはじめ様々な金融に関する部署を歴任した木村剛(きむらたけし)氏の小説です。
当時はバブル崩壊から不良債権の始末・金融ビッグバンから金融監督庁の設立と金融業界が大きく荒波にもまれた時代。
私自身、産声を上げたばかりのFX業界に籍を置き、よちよち歩きをはじめたばかりのオンラインFXトレードを普及させるべく尽力していました。山一証券倒産に対して松井証券・日本オンライン証券などがオンライントレードで注目を集めた時期。
FXは、ダイワフューチャーズが1998年にはじめて以来、まだ電話取引中心の時期。スプレッドなんて5銭~20銭と現在の狭さからは信じられないレベル感。
この時に、木村剛氏は、不良債権の処理のまずさから日本経済が最悪の事態を招くところまでを小説に描いています。
木村剛氏が執筆した通貨が堕落する時はハイパーインフレと円暴落
量的緩和を推し進めると、最終的にハイパーインフレが起きてしまい、急激な円安進行が起きるというテーマ。
量的緩和や財政出動をモルヒネに例えて、根本的な外科手術を行わないことには日本経済は立ち直らないという趣旨。現在(2014年)に至るまでハイパーインフレや日本円の暴落は起きていません。
しかし、黒田日銀による異次元緩和が続いていることで、「小説ペイオフ 通貨が堕落する時」で言いたいことは、現在の日本に通じるのではないかと思います。
●政府は不景気だと財政出動・金融緩和をしたがる。しかし大量におカネをするとインフレに。【紙幣が通用するのは信用があるから】
詳しくはお読みいただくとして印象的なセリフやエピソードをいくつかご紹介します。
「国力は通貨の信用力で決まる」。すべての国の中央銀行総裁の信念。強いおカネの国は強く、弱いおカネの国は弱体化する。その意味では日本銀行券の価値を守ることが日銀の使命。この使命を全うできないならば、日本銀行は中央銀行と呼ぶに値しない。
現実世界では、通貨安戦争が起きる程に、各国は自国通貨安に誘導して景気刺激を行ってきました。ところがアベノミクスから流れが変化しつつあり、米国は好景気かつ強いドル・ユーロや日本は不景気かつ弱い通貨となりつつあり、おカネへの信認問題が浮上。
日銀の福川峻氏と記者のやりとり:はしょってまとめています。
福川氏:量的緩和をいくら行っても意味がない。
記者:心理的な効果やアナウンスメント効果がある
福川氏:インフレという副作用が心配
記者:デフレ時代にインフレの亡霊に溺れすぎ。デフレを乗り切ってから心配しましょう。
福川氏:量的緩和をしても意味がない。この低金利でも新しい事業意欲が出てこない経営者がダメ
記者:偉いんだね。福川さんは、それじゃあ、あなたがやってみなさいよ。批判だけして自分ではできない。あんたらはいつでも安全地域にいて高見の見物。民間にいて不況に苦しんでいたら、副作用や意味がないなどと理屈では済まないことが分かる。みんな必死。所詮あんたは統計の数字しか見ていない
この辺のやりとり、アベノミクススタート時に当時の日銀総裁「白川方明」氏周辺でも交わされたかもしれません。
金融緩和で円安進行
最終的に、量的緩和や日銀による国債引き受けを実行した結果として、カネは回り始める。金利差に目を付けた資金は、ドルやユーロへと海外投資が盛んになる。
国内資金は海外へと流出し、円安で企業業績は回復。
しかし、過剰流動性による円安は止まらなくなる。160円・170円と突き進み、円を調達して海外で運用するキャリートレードが隆盛。円安に伴いじりじりと物価は上がる。
そんなときに中東で大紛争が・・・円は200円を超えて暴落。消費者物価は前年比18%まで上昇。
実は、このシナリオは財政赤字を解消し、過去の日本と決別して次代の日本を作り上げるために鹿島龍三氏が描いたシナリオだった。
ハイパーインフレで財政立て直しを図る政治家鹿島龍三
政治家が主導して財政再建をすすめる。選挙に不利になることを承知で、日本のために財政構造改革法を通した。
⇒景気悪化で退陣に追い込まれる。
あのとき、わたしが橋山と行おうとしていた財政再建をスタートしていれば、財政が破綻して、日本がここまで落ちぶれなかった。景気対策には規制緩和で対応するという基本方針を変えなければ・・・な。
通貨を堕落させながら隆盛を誇った国は歴史上存在しない。しかし・・・
アベノミクス・量的緩和・これらがどのように日本経済に左右していくのか。木村剛氏が2000年に小説で描いたシナリオは実現しませんでした。
今回も、上手にハイパーインフレを回避できるのか?それとも事実となってしまうのか?
一つのシナリオとして、FXトレーダーはもちろんのこと一般の方にも読んでもらいたい小説です。正義感溢れる醍醐広司・沢登隆一、切れ者ながら悪役となる高田喜美男・ドン・コックスなど現実に重ね合わせることができる登場人物多数の読みやすい内容。