トランプ政権の保護貿易・財政赤字削減路線によって、米中貿易戦争への懸念が高まっている2018年のFX相場。今後、どう動くのか。ロイターのコラムで、みずほ銀行の唐鎌大輔氏&JPモルガン・チェースの佐々木融氏が、それぞれの見解を述べています。
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唐鎌大輔氏の円高調整リスクあり
まず、唐鎌大輔氏は、実質実効為替相場から現在のFX相場を分析。国際決済銀行が公表する数字から計算すると円の調整は甘いとの結論。円高が続いた今でも主要通貨で最も割安感が高いのは日本円ということ。
実質実効為替相場からは円高調整の可能性
●実質実効為替相場の長期平均乖離率(過去20年の平均)
- 日本円:-22.5% 一年前の2017年2月は-22.0%から拡大。
- ユーロ:-3.1% 2017年2月の-9.5%から縮小
- 英ポンド:-13.2% 一年前は-17.2%
- メキシコペソ:-19.7%、-31.0%
- 米ドル:+0.8% +8.6%
- スイスフラン:+5.2% +10.0%
- 豪ドル:+4.3% +7.3%
過去20年の平均ですから、短中期的なFXの動きには大きな影響は与えません。しかし、長期でFXをトレードする場合は、重要な結果。また、全体的に乖離が縮小している中で、日本円の乖離幅が拡大傾向していることを意識しておきたい。
唐鎌氏は、ここから、日本円の不均衡が溜まり、もっと円高方向に調整してもおかしくないとの意見を強く主張。
貿易戦争の激化で米ドル全面安のリスク
米国が、安全保障上の脅威という名目で追加関税を課せば、貿易戦争・通貨安競争の可能性は高い。⇒米国だけが関税を引き上げて、他国が追随しないというのは考えにくいので、関税率引き上げや品目を増加させていけば、必然的に貿易摩擦は高くなります。
その結果は、各国が関税・セーフガード発動を始めれば、世界の貿易量減少・世界経済の停滞という結果に落ち込む。各地域のブロック化が世界大戦の原因の一つだったことも指摘されています。
そして、貿易戦争の武器は3つ。関税・非関税障壁・通貨安。つまり、米国が本気で貿易戦争を仕掛けるならドル全面安のリスクが強いということ。
変動為替相場制で、基軸通貨ドルの意向は、絶対であり、米国が望む通貨政策の方向性は実現性が高い。⇒プラザ合意など有名ですね!
貿易戦争が激化すれば、対米貿易黒字の大きい国の通貨が高くなりやすく、日本は第三位の黒字額にあることから、円高リスクが高いとの予想です。
◆米ドル/円の週足チャート アイネットFX 2018年3月28日
ペンタゴンチャートでもまだ下値はありそう。やはり、100円を目指すリスクは覚悟しておくべきか。
佐々木融氏の日米政治リスク
これに対して、佐々木融氏は、円高圧力が落ち着くと予想。
現状のFX相場は、米ドルの保護主義でのドル売りよりも政治リスクによるリスクオフの円買いと指摘。
米国と中国の関税引き上げ合戦はどちらの利益にもならない。中国が保有する1.17兆ドルの米国債売却も誰の得にもならない。もっともFX・債券・株式市場などが、思惑に反応する可能性はある。
米中貿易戦争は起こらない?
米中は、関税をお互いに引き上げる貿易戦争よりも交渉で解決するのではないかというのが佐々木氏の考えです。
短期的な円ショートポジションの手仕舞いは完了し、103円程度へのオーバーシュートはありえる。4月に入ると、日本企業や投資家の対外投資も積極化し、世界の資産価格低下に歯止めがかかって、円高圧力が落ち着く。
103円台へのオーバーシュートは短期的な動きで終るのではないかと。
佐々木融氏は、3月中については、円高路線を予想も4月以降について、FX市場の潮目は変化すると予想している様子。日米貿易戦争も合理的に利害を考えれば、激しくはならないとの予想。
大方は、佐々木氏の考えに、賛成したいのですが、人や国は合理的にだけ考えるものではないということが気になります。
個人的には、日米貿易摩擦は、時間をかなりかかりながら、ゆっくりと解決するとは思います。しかし、日本以上に中国は、したたかかつ方向転換をしにくい国。トランプ大統領の脅しに屈せずに、様々な仕掛けをしてくることでしょう。そうなると、最終的に米ドル安に持っていく以外に赤字減らしの方法はないのではと考えます。